5章 原生代
                    (25億年前〜5億4100万年前)
■大酸化事変
 今から25億年前〜5億4100万年前までを「原生代」と呼ぶ。この時期に最も原初的な現在の生命体が発生したからである。大量のシアノバクテリアから生じる酸素は、初めは海中の鉄分を酸化させていたが、3億年の間にその鉄分も酸化し尽くされて海中に滞積し、あふれ出した酸素は海上へ出て上昇するようになった。24億年前のことで、これが「大酸化事変」の始まりである。この時期は、現在に残る縞模様の酸化鉄層と赤色砂岩と呼ばれる酸化鉄の岩石から、約27億年前に始まったことが分かる。その頃から現在まで、大気中の酸素濃度は1万倍以上に増加したらしい〔『地球46億年の旅』6号8〜10頁〕。
 しかし酸素は生命体を酸化することで破壊する性質があるから、これは当時の細胞体にとって脅威にほかならなかった。これへの防御手段として細胞は相互合体することで遺伝子を酸素から守る「共生」の道を選んだ。進化を「競争」ではなく「共生」ととらえたこの画期的な学説は、1967年アメリカのリン・マーギュリスという女性科学者によって提示された。これによって、遺伝子がむき出しになった「原核細胞」から、遺伝子が核の殻で守られた「真核細胞」へと変容したことが分かったのである〔『地球46億年の旅』6号16〜19頁〕。
 真核細胞には、「動物細胞」と「植物細胞」の二種類がある。どちらの真核細胞にもミトコンドリアと呼ばれる遺伝子が含まれている。動物細胞は、細胞内の分泌物や排出物を調整するゴジル体を有している。これに対して植物細胞は、細胞内に緑葉体を持っている〔『地球46億年の旅』6号18頁〕。
■オゾン層の形成
 原生代には、宇宙から降り注ぐ強い紫外線の作用で、地球で発生した酸素分子が分解されてオゾンが発生し、これが地上20〜25キロの高度に薄いオゾン層ができた。このため太陽からの紫外線が弱められることになり、地上での生命体の存在を可能にした。今から9億年前のことである。オゾン層は大気総量のわずか100万分の1ときわめて微量であるが、生物が紫外線を避けて生きるには適切な量である。オゾン層のこの微妙なバランスが形成されるまでの道程は奇跡に近い偶然の積み重ねであったらしい〔『地球46億年の旅』7号12頁〕。
■大陸の形成と分離
 原生代には、陸地が散在する状態が23億年間ほど続いた。しかし、地球内部のマントルの対流によるプレートの沈下と折り重なりから、陸地の移動と衝突によって北米大陸ほどの大陸が生じた。「ヌーナ大陸」と呼ばれる。この発見は、1928年にアーサー・ホームズによって提示された。だが、その大陸は再び分裂し、再び衝突合併して「ローレンシア」大陸となり、再度分裂して今度はロディニア大陸になった〔『地球46億年の旅』7号16〜19頁〕。この大陸の形成と分裂は18億〜13億年前のことであるから、古原生代の終わり頃から中原生代の終わり頃までのことである〔『地球全史スーパー年表』〕。
■多細胞の発生
 新原生代の終わり頃(7億3000万年〜6億3500万年前)に地球は二つの氷河期に襲われた。その後で、単細胞生物の中の立襟鞭虫(たてえりべんちゅう)が集まって群体となり、やがて細胞間で機能の分化が生じ、多細胞植物(海藻類)と動物が形成される基になった〔『地球46億年の旅』7号24〜25頁〕。多細胞生物が出現したのはほぼ6億年前の新原生代の終わりのことである〔『地球全史スーパー年表』〕。
■全球凍結からエディアカラ動物群へ
 氷河期を抜け出した地球を8億年前に雪玉地球(スノーボ−ルアース)の時期が襲った。1992年にカリフォルニア工科大学の古地磁気学者ジョセフ・カーシュビングが「氷河堆積物」から、この説を唱え1998年にハーバード大のポール・ホフマンによって確証された。しかしその原因は未だに謎であり、論議が続いている。原因は、陸地の拡大により陸地から海へ流れ込んだ大量のカルシウムイオンが海中の二酸化炭素と結合して、その結果大気中の二酸化炭素ガスの層が薄くなり、地熱が大気圏に逃げ出したことによるらしい。8〜6億年の間、陸地では数千メートル、海でも千メートルもの雪氷が地球を覆い、文字通り「雪玉地球」と化した〔『地球46億年の旅』8号8〜13頁〕。この地球を溶かしたのは、地中のマグマから発生する炭酸ガスで、雪層の隙間から漏れる炭酸ガスは、光合成される生物も海も存在しないままに大気圏に溜まり続け、このため太陽光による温室効果が加速度的に上昇し、極寒の地球から一転して摂氏50〜60度の熱い地球へ変貌した〔前掲書14〜17頁〕。海底深く生息していた生物はこの時期に海中で数センチから2メートルに及ぶ色とりどりの海藻類のような生物となった。「エディアカラ動物群」である。しかし、これらの種は、現在の生物に受け継がれることがなかったらしい〔前掲書20〜25頁〕。
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