ギリシア語原語のカタカナ表記について
               (2023年12月31日)
 新約聖書の原語であるギリシア語のカタカナ表記について、お断わりしなければならないことがあります。コイノニア会のホーム・ページでは、原則として、文中のギリシア語は、それぞれの単語の綴り文字(スペル)の音に対応するカタカナ表記になっています。ただし、ギリシア語の子音文字と母音文字は、カナ一文字になります(kai=カイ/ton=トン)。単語の綴り文字の音をそのままカタカナに移し換えるこの表記は、単語ごとに、綴り(文字)の読み音をある程度まで連想できるようにという意図からです。
 実を言えば、私が最初に大学で学んだギリシア語は、紀元前5世紀頃に、プラトンなどが用いた古典ギリシア語で、これの使用は、ギリシア本土とその周辺に限られていました。これに対して、新約聖書で用いられるギリシア語は、紀元1世紀頃の「コイネー」と称されるギリシア語です。「コイネー」は、前4世紀の終わり頃から、アレクサンドロス大王によるオリエント地域の征服によって普及したギリシア語で、このギリシア語の使用版図は、ギリシアとローマから、パレスチナを含むオリエント(中近東)地域全体に及ぶものです。コイネーは、、話し言葉として、商用などで広く用いられました。コイネーは、古典ギリシア語とは、時代も使用地域も異なりますから、両者は、文体も発音の仕方も異なります。マルコ福音書2章1〜2節を例にあげると、次のようになります。
 
「数日の後、(イエスが)再びカファルナウムに来られると
家に居られることが知れ渡った。
大勢の人が集まったので、すき間がなく
戸口の辺りまで(なかった)。
そして(イエスは)御言葉を語っておられた。」
 
これを原語のギリシア語の単語ごとに綴り文字の音をカタカナ書きにすると、次のようになりましょう。
 
「カイ エイセルソーン パリン エイス カファルナウム ディヘーメロン 
エークーサセ ホティ エン オイコー エスティン
カイ シュネクセーサン ポロイ ホーステ メーケティ コーレイン
メーデ タ プロス テェーン トウーラン
カイ エラレイ アウトイス トン ロゴン」
 
 これをギリシア語のコイネー読みにすると、ざっと、次のように聞こえるようです。
 
「ヵェイスッルトーン エィサフールヌン デメルン
エクーセン オティノイケスティン
カシュネクセーサンオロイ オスティメティオリン
メディアプロストン ティーラン 
カイラリオイス ツロノン」
 
 なお、カタカナ表記は、次のような原則に従いました。
(1)人命や地名やその他慣用となっているものは、ソークラテース→ソクラテス/アリストテレース→アリストテレス/ヘーシオドス→ヘシオドス/ギリシア神話の「エロース」(愛の神)と「プシューケー」(人の霊魂)→「エロスとプシケ」/コイノーニア(交わり)→コイノニア/ハーデース(黄泉の国)→ハデスのように、「日本式」の読み方にする。
(2)二重母音や動詞の語尾などは、「アガパォー」(愛する)→「アガポー」/「カレオ−」(呼ぶ)→「カロー」/エウロゲオー」(祝福する)→「ユーロゴー」/「エウカリストー」(感謝する)→「ユーカリストー」/「プネゥマ」(風/霊)→「プニューマ」とする。
(3)気息音などでは、「ハマルティア」(罪)→「アマルティア」/「ハギオス」(聖なる)→「アイオス」とする。
(4)以上の原則は、現在のホームページでは、まだ不統一です。追々(おいおい)、訂正しますので、どうぞご容赦ください。
 ちなみに、筆者が、ギリシアを旅行した折には、「エウカリスト」(有り難う)は「ユーカリト」で通しました。挨拶の「今日は」を「カラ・ヘーメラ」(善い日)と言うと、ちゃんと通じましたが、挨拶の相手から「カレーメラ」と直されました。ホテルのことを「クセノドケイオ」と言うと、これも通じましたが、「クセノドヒーオだよ」と訂正されました。数字は、ほぼ文字どおりの発音で通じましたが、「20」の「エイコシ」は「イーコシ」あるいは「ユーコシ」にも聞こえました。
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