ヘブライ語の「エルサレム」については、先ず「シャーレムの王、メルキ・ツェデク」(創世記14章18節)があります。次に「アドニ・ツェデク、イルーシャラィームの王」(ヨシュア記10章1節)とあって、これが聖書で「エルサレム」が出てくる最初です。これは「平和の所有/平和の基」を意味する双数(二つを指す)から出た名前で、双数はエルサレムがシオンの丘とモリヤの丘の二つの上に建てられているからだと思われます〔Easton's Bible DIctionary〕。これがアラム語で「イルーシャレム」(エズラ記4章8節)、あるいは「イルーシャレィム」(ダニエル書5章2節)になります。この固有名詞のほんらいの意味は失われたと思われますが、「シャーレム(平和)」の原義は、ヘブライ語の「シャーローム(平和)」とアラム語の「セラーム」として伝わっていたでしょう(詩編76篇3節参照)。フィロンはこの名前を「平和のヴィジョン/平和を見る」と解釈しました〔フィッツマイヤ『ルカ福音書』(2)1256頁〕。なお新約では、ヘブライ人への手紙では、「メルキゼデク」の名を<「義の王」であり「サレムの王、すなわち『平和の王』」>と紹介しています(ヘブライ7章2節)。
新約全体では、「エルサレム」が143回ほどでてきます。マタイ福音書では15回ほどで、マタイ23章37節の「イエルーサレーム」を除くと、これ以外はすべてギリシア語の複数にあたる「ヒエロソリュマ」か「ヒエロソリュモーン」(複数属格)など、「ヒエロソリュマ」系です。マルコ福音書では9回ほどで、すべて「ヒエロソリュマ」系です。ルカ福音書では全部で32回ほどで、「ヒエロソリュマ」がほとんどですが、4回だけ「イエルーサレーム」がでてきます(ルカ2章22節/13章22節/19章28節/23章7節)。ルカの使徒言行録では58回ほどですが、その中の21回ほどが(8章と20〜28章に多い)「ヒエロソリュマ」系で、それ以外は「イエルーサレーム」です。ルカ系の文書ではギリシア語読みとヘブライ語読みが混在していますが、これはルカの用いた資料の表記から来ているのでしょうか。ヨハネ福音書では12回ほどで、すべて「ヒエロソリュマ」系です。パウロ書簡ではガラテヤ人への手紙には「ヒエロソリュマ」が幾度かでてきますが、ローマ人への手紙では「イエルーサレーム」です。パウロは異邦人キリスト教徒とユダヤ人キリスト教徒とで表記を使い分けているのでしょうか。ヨハネ黙示録ではすべて「イエルーサレーム」です。
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