4章
ヘルメス選集:
第U篇と第V篇の概略と第W篇の杪訳
第U篇
トリスメギストースとアスクレピオースとの対話。宇宙(コスモス)の運動について(1)(2)。宇宙はもろもろの「体」であるが、その体は「善なる神」(14)(15)の「場」(トポス)によって包まれる「霊智のトポス」である(4)。霊智が存在するのは神から出たからである(6)。北極星と惑星の運行(7)。霊智こそ神から出て場を動かす。「善と真理」は、そこから発し(12)、体(ソーマ)も霊体も、感覚も非感覚も霊智によって認識されるすべてに及ぶから、他の何ものをも「善」と呼んではならない(15)。神と神々(16)。
第V篇
聖なる教え。「神」と「神性」と神聖な自然(フュシス)に栄光あれ。万象の源は、霊智(ヌース)と大自然(フュシス/物料も含む?)の両方を含む(父なる)神である。神はまた、すべてを啓示する知恵(ソフィア)である。(万象の)源は神性にあり、それは、大自然と、エネルギーと、必然(運命)と、終点に終わり再更新を始める源である。(これらすべての下部にある)深淵には、限りない暗闇と水と精妙微細な霊があり、それらは、神の働きによる混沌状態にあった。聖なる光が昇ると、(水と砂=物料の)湿潤から渇いた地が現われ、(四大元素の)諸要素と(諸圏層の)神々は、豊穣の大自然(フュシス)から分離した(1)。軽いものは上昇し、重いものは乾いた地の下の湿潤へと沈んだ。こうして、万象は火によって分かたれ、(諸圏層の下のものは)霊気の下にぶらさがるようにして保存された。諸天に七つの圏層ができて、星星がしるしを与えた。大自然(フュシス)は、様々に自然の肢体を分けた(2)。あらゆる肉体には魂が宿り、あらゆる果実には種が宿り、あらゆる手の業は廃れると必ず更新が伴う。それらは、(圏層の)神々の復元力と、大自然(フュシス)の回転する律動の輪(わ)の営みによる。このゆえに、神性とは、宇宙を構成する諸要素を絶えず更新する大自然(フュシス)の働きでありながら、大自然(フュシス)そのものもまた、その神性によって成り立っている(4)。「大自然」とは、下部の物料(ヒュレー)による「自然」よりも高度の「自然」を指す〔『ヘルメス文書』選集V(4)注33参照〕
第W篇
創造主(デミウールゴス)について。
(1)【ヘルメス】創造主(ホ・デミウールゴス)は、その手によらず、その言葉(ロゴス=理性)によって、宇宙万象(ト・パンタ コスモス)を造った。それゆえに、あなた(エジプト神トトを指す)は、創造主が、普遍であり、恒久に存在すると思わなければならない。彼(創造主)は、ただ一人、万物の造り主で、その意思(セレーマ)によってあらゆるものを創造した。この(彼の)体(ソーマ)は、だれも、触れることも見ることも測ることもできない。他のいかなる形にも似ない無辺の体(ソーマ)である。それ(体)は、(上の)火でも(下の)水でもなく、(下の)空気でも(上の)霊気(エーテール)でもない。それなのに、それら(四元素)すべては、そこ(デミウールゴスの体)から生じる。(デミウールゴスは)「善なる者」であるから、己の体を自分のためだけに聖別し、その(体の)大地を秩序づけ(=コスモスする)、これを飾る(=コスモスする)。
(2)こうして彼(デミウールゴス)は、この神的な(四元素の)構成する大地に秩序(コスモス)を遣わし、人には、死ぬべくして死ぬことのない命を遣わした。それでも人は、その言葉(ロゴス=理性)と霊智のゆえに、他のあらゆる生命と宇宙(コスモス)に優るものであった。彼(人)は、神の御業を観想する者だったからである。彼(人)は、その御業に驚嘆し、それら(御業)を造り出す者を知ろうと務めた。
(3)おお、トトよ。実に、言葉(ロゴス=理性)は、あらゆる人に分け与えられているが、霊智のほうはそうでない。創造主がそれ(霊智)を惜しむからではない。彼には惜しむことなどないから、 霊智は、下部の霊智を持たない人の魂に宿る。
【トト】父よ、なぜ神は、霊智をすべての人に授けようとはしないのですか?
【ヘルメス】神の意志は、霊智を(人の)魂の内部に、報償として授けるために掲(かか)げ置いたのです。
【トト】神はその報償をどこに掲(かか)げて置いたのですか?
【ヘルメス】彼(神)は、霊智を入れた大いなる大杯(クラテール)を作り、それを下部に送り(神の)使者に言わせた。「心ある者たちよ。この大杯に満ちた(霊智を)浴(あ)びよ(=バプテスマせよ)。この大杯を遣わした神のもとへ昇ろうとするほどの信仰ある者よ。自分が何のために有るのかを悟ろうとするほどの者よ。」
使者のお告げを理解して自らを霊智に浸した者たちは全員、神智(グノーシス)の分け前に与り、「霊智を授かった」者たちは、「全(まった)き人」になった。しかし、使者のお告げを理解しなかった者たちは、言葉(ロゴス=理性)だけで霊智を持つことなく、何のために、何によって自分が存在するのかを悟らないままである。
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