時事告刻
アングロ・サクソン時代の終焉
(2016年12月)
昨年のイギリスのEUからの離脱と、今年のアメリカで、トランプ大統領が掲げる世界支配帝国主義からの離脱宣言は、アングロ・サクソン時代の終焉を告げる晩鐘である。アングロ・サクソン時代とは、17世紀〜20世紀の約400年間にわたる英米主導の世界史のことを言う。ここで言う「主導」とは、科学技術に支えられた資本主義帝国による支配のことを指す。
(1)ニュートンに始まる近代科学は進歩を目指してどこまでもその追求を止めなかった。特に科学研究が実用的な技術と結びつくことによって巨大な力を発揮するようになった。18世紀末から始まったイギリスの産業革命によって、ワットの蒸気エンジン、モールスの電話、エジソンの電気器具、フォードの自動車産業、ライト兄弟に始まる飛行機、そして、アメリカでの20世紀半ばの核兵器にいたるまで、アングロ・サクソン主導の科学技術は目覚ましい発展を見せた。
(2)科学の進歩は、資本主義による経済力の支援と切り離すことができない。イギリスに始まる資本主義は、資本の飽くことのない「成長」と不可分である。科学技術の進歩と資本の利益追求を支えるのは、どこまでも追求して止まない未来志向である。これが世界の経済を牽引してきた理念である。
(3)科学技術に支えられた資本主義は、これを支える帝国主義の理念、すなわち「グローバリズム」と切り離すことができない。軍事力と経済力の優位による帝国主義の世界規模の支配は、過酷な植民地政策と表裏を成して世界史を形成してきた。
(4)科学技術資本主義帝国を支えてきた思想的な柱が、アングロ・サクソン時代のプロテスタント信仰である。イギリスのアングリカニズムとアメリカのピューリタニズムは、「内閣制度」と「個人の自由」と「人権」を柱とする「議会制民主主義」という価値観を掲げて、軍事力と経済力と思想理念の三位一体に基づく帝国を形成し、その価値観を「グローバリズム」として世界を主導してきた。ところが、カトリックと対抗し、これに取って代わろうとするアングロ・サクソンのプロテスタント信仰は、科学技術と資本主義を力とする帝国のグローバリズムとは相容れない<宗教的な理想>をも内包していた。科学技術資本主義帝国を動かす力とアングロ・サクソンのプロテスタンティズムが求める理想との間には、埋めがたい亀裂が存在していたのである。この亀裂は、以下の二つの課題を生じさせている。
(A)イギリスによる労働者階級への搾取と異教徒への植民地支配、アメリカにおける奴隷制度依存型の大規模な農園経営という形で、その当初から原罪を抱えていた。キリスト教プロテスタントに根ざす個人の自由と平等を目指す人権思想は、科学技術に裏付けられた資本主義との間のこのギャップを埋めることができないまま、現在にいたっている。人種差別に基づく異教徒支配を目指す大英帝国の理念と、人権思想から黒人奴隷を除外視するアメリカ帝国主義のキリスト教は、理想と現実との間に潜むこの溝を克服できなかった。これが今日の終焉をもたらした要因である。古代ヘブライの宗教がヤハウェの律法理念を実現できないまま、サドカイ派の大土地所有者によるイスラエルの民の搾取を克服できず、ゼロータイなどの熱狂的なユダヤ主義に牽引されてユダヤ戦争を引き起こして崩壊にいたった歴史と軌を一にしている。
(B)アングロ・サクソン帝国主義とピューリタニズムのもう一つの溝は、自由主義恋愛に基づく結婚愛と家族制度の崩壊である。大企業のグローバル市場は、霊的な結婚愛を推進させる代わりに破壊し、家族と地域共同体を崩壊させて「孤人」を製造した。理想と現実の狭間に生じたこれらの欠陥は、未来志向の科学技術進歩主義と成長志向の資本主義経済の両輪によってもたらされたものである。
ただし、ここで強調しておかなければならないことがある。科学技術の革新は科学技術を受け継いだ人たちからしか生まれてこない。資本主義の矛盾は、資本主義を受け継いだ人たちによってしか克服されない。同様に、民主主義も個人の人権思想もこれを受け継ぐ人たちによらなければ、新たな展望を見出すことができない。これに続く新たな時代がどのような形で形成されるのか、これの見通しはまだ立っていない。少なくとも、これから21世紀の終わりまでは、世界の情勢、とりわけ、日本を巡るアジアの状勢は混迷を続けるであろう。これに伴って、日本の国情も不安定になると予想される。この国の底辺でも深い亀裂が生じている可能性があるから、日本人のエクレシアに課せられた責務は重大である。アングロ・サクソンのキリスト教も、この流れを受け継ぐ日本人のエクレシアの中からしか新たな展望を啓(ひら)くことができない。私たち日本人のエクレシアは、改めてイエス様の「和解の福音」を掲げて、韓国と中国のエクレシアと手を携えて、アジアの平和を守ろうと心がける必要に迫られている。今後の日・韓・中の関係は、アジアの状勢を左右する大事な鍵なのだから。
キリスト教が極西アジアに誕生して以来、キリスト教の主流は、ギリシア正教圏からラテンのローマ・カトリック圏へ、ヨーロッパのプロテスタント圏から、英米のアングロ・サクソン主導のプロテスタント圏へと移行してきた。しかし、今、17世紀から20世紀までの400年間、科学技術と資本主義で武装し、議会制民主主義と基本的人権を掲げてきたアングロ・サクソンの時代が終焉を告げている。これからは、東アジア・キリスト教圏の時代が始まるというのが、私のほぼ確信に近い予測である。
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