3章 四系列七構想
          
 ヨハネの黙示録は、数秘の「7」構想に基づく四つの系列で、その重要な部分が構成されている。それらの系列をあげると、以下のようになる。青色の【 】は、7構想に属さない「幕間」の箇所である。これらの幕間の箇所は、明確に区別されているわけではないが、ヨハネの黙示録の本題を扱っている重要な箇所である。
 
■四系列と七構想
【T】七つの教会へ
(1)2章1節 エフェソの教会へ。
(2)2章8節 スミルナの教会へ。
(3)2章12節 ペルガモンの教会へ。
(4)2章18節 ティアティラの教会へ。
(5)3章1節 サルディスの教会へ。
(6)3章7節 フィラデルフィアの教会へ。
(7)3章14節 ラオディキアの教会へ。
   【4章〜5章】
【U】七つの封印
(1)6章1節 第一の封印:白い馬。
(2)6章3節 第二の封印:赤い馬。
(3)6章5節 第三の封印:黒い馬。
(4)6章7節 第四の封印:青白い馬。
(5)6章9節 第五の封印:白い衣の殉教者たち。
(6)6章12節 第六の封印:怒りの大いなる日。
【7章】
【V】七つのラッパ
第七の封印で始まる。
(1)8章7節 第一のラッパ:陸地が焼ける。
(2)8章8節 第二のラッパ:海が血に染まる。
(3)8章10節 第三のラッパ:星が天から落下。
(4)8章12節 第四のラッパ:太陽と月と星が光を減じる。
(5)9章1節 第五のラッパ:巨大な星の落下とバッタ/蝗の群れ。
(6)9章13節〜21節 第六のラッパ:人類の三分の一が死滅。
   【10章】
(7)11章15〜19節 第七のラッパ:神の裁きと救い。24長老の感謝。
   【12章〜15章】
【W】七つの鉢
 第七のラッパで始まる。
(1)16章2節 第一の鉢:獣の烙印を持つ者に腫瘍。
(2)16章3節 第二の鉢:血の海と生き物の死。
(3)16章4節 第三の鉢:水源の水が血に。
(4)16章8節 第四の鉢:太陽の熱で焼かれる人々。
(5)16章10節 第五の鉢:獣の王国の闇。
(6)16章12節 第六の鉢:ユーフラテス川が涸(か)れる。
(7)16章17節 第七の鉢:大淫婦バビロンへの裁きと滅亡。
   【19章〜22章】
■三系列の対応関係
 ヨハネの黙示録には、七つの封印で閉じられた巻物がでてくる(5章1節)。その巻物の「封印を解く」(そこに記された出来事が現実に起こること)ことができるのは「(天の)玉座」の側近くに立つ「屠られた小羊」(イエス・キリスト)だけである(5章〜10節)。さらに、「神の御前に立つ」七人の天使たちがでてくる。ラッパを持つ七人の天使たち(8章2節)と、「最後の災い」をもたらす七つの鉢を持つ七天使である(15章1節/同5〜8節)。
 小羊が第六の封印を解くと天変地異が起こり、「神と小羊の怒りの日が来た」とあるから(6章12〜17節)、これは「終末の訪れ」だと見ることもできる。ところが、小羊が第七の封印を解くと、七つのラッパを持つ七天使がでてきて、そこから、新たな系列の七災厄が始まる(8章1節/同6節)。同様に、ラッパ系列の第六番目の天使のラッパで、別の四人の「災厄天使」が、地上の人類を殺し、世の終わりを想わせる大災厄をもたらす(9章13〜19節)。それから、第七番目の天使がラッパを吹くと、「神の秘義(イエス・キリストの福音)が成就する」(10章7節)。これもまた、終末期の最終の到来を想わせる出来事である(11章15節)。このように、封印の系列は、その第七番目の封印によって、ラッパの系列を「絡(から)め取る」構成をとっている。*1 
 そこからは、七構想の「幕間」とも想える箇所が、12章から14章の終わりまで続いている。それから、災害をもたらす七つの鉢の七天使がでてくる(15章1節/同7節)。第六の鉢の天使によって、ハルマゲドンの闘いが準備され(16章12節/16節)、第七番目の天使の鉢は、神の怒りによる大バビロンへの裁きをもたらす(16章17節〜21節)。
 このように、ヨハネの黙示録は、初めの七つの教会への言及に続いて、七つの封印と七つのラッパと七つの鉢の三つの系列が続く。数秘の「7」は「完全と成就」を表わすから、七教会は、イエス・キリスト以後からキリストの再臨にいたるまでのエクレシア(教会)の歴史の全体像を象徴している。だから、これに続く封印とラッパと鉢の三系列は、キリストの教会がその全過程において体験するであろう様々な出来事を象徴する。では、教会に続く三つの系列は、相互にどのように関連するのだろうか? これについては諸説があるが、二つに大別することができる。
【A】三系列の同時対応
 封印とラッパと鉢との三つの系列で語られているのは、「同じ一連の出来事」を異なる視野から、それぞれ違った系列によって描いているという解釈がある。*2 先ず、七つの封印の災害は、七つのラッパのそれらと内容的に対応している。また、ラッパによる災害の系列も(8章2節〜14章20節)、続く鉢による災害の系列(15章1節〜19章21節)と並行しているという見方ができる。このように見ると、封印とラッパと鉢の三系列は、「同時に進行する出来事を密接に並行する構成で、神秘的、断片的に、しかも、出来事が起こることを前もって予想させる仕方で」表わしていることになる。*3 こういう構成は、ヨハネの黙示録に描かれる幻視が、七教会に象徴される「神の民」の歩みと「同時に起こる」出来事の表象であり、しかも、それらの出来事は、ある程度の周期性さえ具えていることを表わす。
【B】三系列の時間的継続
 封印とラッパ/トランペットと鉢の系列は、イエス・キリストの全教会(エクレシア)の紀元後から終末までの歩みの全行程の「出来事を時間的順番に並べることで、初めから終末に至るまでを一筋の直線的な時間の流れによって描こうとしている」*4 という見方がある。ただし、先に指摘したように、第七の封印は、続くラッパの系列を「絡め込んでいる」から、封印の系列が、その最終段階で、ラッパの系列を含める構成になる。
 七つのラッパのそれぞれでは(8章7節〜10章7節)、(1)草木の三分の一が焼け、(2)海水の三分の一が血に変わり、(3)川水の三分の一が苦くなり、(4)天体の光の三分の一が失われ、(5)バッタの群れが五ヶ月間、神の刻印を持たない者を苦しめ、(6)人類の三分の一が殺される。これら六つの「ラッパ災害」に続いて、(7)七つ目のラッパで、天が開かれて、「神の秘義が成就し」「福音(良い知らせ)が告知される」(10章7節/11章15〜19節)。
 ラッパに続く七つの鉢では、(1)聖なる民に属さない者に悪性の腫れ物ができ、(2)海水は死人の血で染まり、(3)水の源が血に変わり、(4)人々が太陽で焼かれ、(5)闇が獣(暴君)の国を襲う。(6)では、大河が涸れ、悪霊が世界の王たちを集め、ハルマゲドンの闘いに備える(16章2節〜16節)。(7)七つ目の鉢で、稲妻、轟音、雷鳴と共に、神による大バビロンへの裁きが下り、バビロンは滅びる。
 これで見ると、七つ目のラッパで終末がでてくるから、続く七つの鉢がもたらす災害もまた、ラッパの最終段階に含まれてくるように見える。だから、七つの封印の最後が、七つのラッパの出来事をもたらし、七つのラッパの災害とその最終が、七つの鉢の災害と終末をもたらすという、三重の「7」構想が浮かび上がってくる。そこに見えるのは、出来事の繰り返しと出来事の進行との不思議な組み合わせであるが、*5 ヨハネの黙示録は、教会を含む人類の歴史が、過去から現在を通じて未来へとまっすぐに進むことで、「最終の終末」にいたるという時間構成を採ることになる。*6
■主題部分とその展開
 すでに指摘したように、数秘の「七」による構成は、混沌とした内容を整理する機能を持つ。ところが、数秘は、整理すると同時に、その数秘構成の「狭間にある」部分、すなわち、数秘による整理の枠では表わすことが<できない>部分に光をあてることになる。数秘構成は、その構成に「入らない部分」をも注目させる効果があることを知ってほしい。実は、整理された七構成の「狭間に置かれた」部分を浮かび上がらせるこの効果こそ、数秘による構成の重要な意義を示している。
 あえて、言わせていただければ、「狭間」あるいは「幕間」の部分こそ、ヨハネ黙示録の「主題部分」だと言えよう。無番号の主題部分で、とりわけ注目されているのが、10章1節〜15章4節の部分である。この箇所は、ヨハネ黙示録全体の中心に位置していて、ヨハネ黙示録は、内容的に、この「主題部分」を真ん中に、対称的に「交差」を形成しているという説さえある。*7 交差法説は支持できないが、無番号の箇所こそ、作者ヨハネは、七構成部分から意図的に「際立たせる」ことで、「神による裁きと救い」の全貌を表明しようとしているという見方ができよう。筆写(私市)も、作者ヨハネの7構想は、おおむね旧約の伝統的な手法を受け継いでいるが、無番号の箇所では、彼独自の仕方で新約のメッセージを語っていると考える。
■幕間部分
 主題部分として採り上げられているのは、ヨハネ黙示録の以下の箇所である。
(1)6章12〜17節:小羊が第六の封印を解いた。太陽と月と星に大異変が起こり、天は巻き取られ、地上の王たちを始め民は岩間に身を隠す。神と小羊の大いなる怒りの日が来た。
(2)7章9〜17節:大きな苦難をくぐり抜け、小羊の血で贖われた白衣の民が、天の玉座の前に立つ。玉座の中央に居る小羊が、彼らの涙をことごとくぬぐい去る。
(3)10章。巻物を手に「力強い天使」が天から降る。雲をまとい虹を頭に、顔は太陽、足は火の柱。この天使は、5章2節との2回だけで、別格の「天使」であるから、「小羊」であり「人の子姿」でもあるイエス・キリストのこと。*8 彼は作者に、七つの雷の言葉を記さずに秘めておくよう指示する。また、第七のラッパが鳴る時には、神の秘義が成就すると告げる。作者が、天使から巻物を受け取って食べると、口には甘いが、腹では苦くなる。天使は作者に預言を続けるよう指示する。
(4)14章14〜20節:金冠の人の子姿が、雲に乗り鋭い鎌を手にしている。祭壇から火を司る天使が出てきて、人の子姿に言う。「地上の葡萄の実は熟したから葡萄の房を刈り取れ」。人の子姿が雲の上から鎌を地上に投げると刈り入れが行なわれた(14〜16節)。これは、「選ばれた民」への救いを指すのか? *9 続いて、人の子とほぼ同じように、鋭い鎌を持つ「もう一人の天使」がでてくる。すると、また先のと同じように、祭壇から火を司る「もう一人の天使」が、「地上の葡萄の実は熟したから葡萄の房を刈り取れ」と命じる。天使が、地上の葡萄を取り入れ、「神の怒り」の葡萄絞りの桶に投げ込むと、都の外で葡萄が踏まれ、大量の血が流れ出た。17節以下では、不信仰な者たちへの裁きが行なわれるのか?*10
(5)15章2〜4節:火の混じるガラスの海の岸辺に、獣とその像に勝った者たちが、神の竪琴を手に、モーセの歌と小羊の歌を歌う。「あらゆる国々の民が、聖なるあなたにひれ伏すでしょう。」
(6)16章17〜21節:第七の鉢が注がれた。玉座から大声が、「(事が)起こった/実現した/成就した」(「ギノマイ」の完了形)と言う。稲妻、轟音、雷鳴、大地震が起こり、大きな都が三つに裂け、大粒の雹が降り人々は神を冒涜した。
(7)17章1節〜18節:七頭十角の深紅の獣に座る大淫婦「大バビロン」の裁きが始まる。淫婦は聖なるイエスの証人の血に酔っている。獣は「かつて居たが、今はもう居ないが、底なし淵から上がってきて滅ぼされる」。七頭は、(都市ローマの)七丘の七王のことで、十角は十王である。彼らは、今は、まだ国の支配者でないが、獣から権力を与えられると小羊と闘う。小羊は彼らに勝利する。淫婦(地上の王たちを支配する大いなる都)は諸民族の上に座る。十角獸は淫婦を憎み、彼女を裸にし肉を食らい火で焼く。
(8)19章1〜10節:大群衆が言う、「ハレルヤ、大淫婦が裁かれ、神の僕の血の復讐が成された」。玉座から声がする、「神をたたえよ」。大群衆が言う、「小羊の婚宴の日が来た」。
(9)20章7〜15節:「千年(王国)」が過ぎると、サタンが牢獄から解き放たれる。ゴグとマゴグは闘おうとするが、天から火が降り、悪魔は火と硫黄の池に投げ込まれる。白い玉座の前で巻物が開かれ、海が死者をはき出すと、命の書に名がない者は第二の死の火の池に投げ込まれる。
(10)21章1〜8節:天地が過ぎ去り、新天新地が現われる。聖なるエルサレムが花嫁姿で現われ、玉座の方が言う、「事は成った。私は、アルファでオメガ、始めで終わり。勝利を得る者には命を。臆病な不信仰者には第二の死を」。
■終末の七幻視*11
(1)19章11〜16節
(2)19章17〜21節
(3)20章1〜3節
(4)20章4〜6節
(5)20章7〜10節
(6)20章11〜15節
(7)21章1節〜22章5節
 

*1 David Noel Freedman ed. The Anchor Bible Dictionary. (5) Doubleday (1992)"Revelation." 698.
*2 Beale. The Book of Revelation.786--788.
*3 Freedman ed. The Anchor Bible Dictionary. (5) "Revelation." 697.
*4 Freedman ed. The Anchor Bible Dictionary. (5) 697.
*5 Beale. T】七つの教会へ 119の図を参照。
*6 Beale. The Book of Revelation.116--121.
*7 Beale. The Book of Revelation. 130.
*8 Beale. The Book of Revelation. 522.
*9 Beale. The Book of Revelation. 773.
*10 Beale. The Book of Revelation. 773.
*11 日本基督教団出版局『新共同訳新約聖書注解』(U)485頁参照。
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