(4)シルミウム会議とニケ信条
■シルミウムの「冒涜信条」(357年)
 コンスタンティヌス帝が逝去すると(337年)、ローマ帝国の領土は、3人の息子たちによって三分割された。コンスタンティヌスⅡ世と、コンスタンティウス(Ⅱ世)(在位337~361年)と、その弟のコンスタンスである。コンスタンティウスⅡ世は、ローマ帝国の東部を支配していたから、東部のパレスチナの教会の流れを汲むアレイオス主義に与(くみ)した。これに対して、帝国の西部を支配していたコンスタンスは、ニカイア信条を支持していた。このために、教会の信条をめぐって対立することになり、一連の会議がもたれることになった。会議は、341年のアンティオキア教会会議、343年のサルディカ西方教会会議など、それ以後も、347年/51年/57年/59年/60年/62年/68年/と続き、381年のコンスタンティノポリスの公会議にいたることになる〔『原典古代キリスト教思想史』(2)227~246頁参照〕。中でも注目されるのが、シルミウムでの第三回目の会議(357年)である。これに先立って、弟のコンスタンスは、王位簒奪者のマグネティウスによって殺されたので、コンスタンティウスⅡ世は、マグネティウスを討ち取って、帝国の東西を統一し支配していた(51年以降)。彼は、マケドニア北方のシルミウム(現在のセルビアの西部)に住居があったから、そこで会議がもたれた。主として西方の教会の司教たちの参加による会議であったにもかかわらず、そこで採択された信条は、ラテン語で書かれ、「ホモウシオス」などの用語を禁じ、御子の御父への従属を表明するなど、アレイオス主義の強いものであった。俗に「冒涜信条」(Blasphemy of Sirmium)と呼ばれている。
■ニケ信条(359年)
 359年5月22日に、アレトゥサのマルコスによって、シルミウム第四信条が起草された(日付信条)。ここで「十字架につけられ、死んで陰府に降り、そこで統治し、この方を見た陰府の番人は恐れおののいた」が加えられた。また「ウシア」という用語は聖書のどこにも記されていないから、神についてはこれ以上言及すべきでないと加えられた。コンスタンティヌス帝はこの信条を是認したが、会議では拒否された。「ニケ信条」は、359年10月に、現在のギリシア東北部にあたるトラキアの小村ニケでの会議で採択されたもので、先の日付信条を訂正したものである。ローマ皇帝の圧力によって正統派もこれに署名した。これは360年にコンスタンティノポリス教会会議で批准された。〔『原典古代キリスト教思想史』(2)240頁〕
【ニケ信条】
 我々は信じる、ひとりの神、御父、すべてを支配する方を。すべてのものはこの方に由来する。また、神の独り子なる御子、あらゆる代々に先立ち、あらゆる元(アルケー)に先立ち、神から生まれた方を。この方を通して、見えるものと見えないもの、すべてのものは作られた。この方は生まれた者であり独り子、ただひとり御父からのひとりの方、神からの神、〔聖〕書によれば、この方を生んだ御父に類似した方(homoios)、この方を生んだ御父おひとりの他には、誰もこの方の誕生は分からない。我々は知っている、この神の独り子なる御子を御父が遣わし、〔聖書に〕記されているように、罪と死とを壊滅するために、〔この御子が〕天から到来し、聖霊から生まれ、〔聖書に〕記されているように、肉に即して処女マリアから〔生まれ〕、弟子たちと共にあり、御父の意図に即してすべての救いの営み(オイコノミア)を成就し、十字架につけられ、死んで葬られ、陰府に降られた。この方に陰府そのものが戦慄した。この方は三日目に死者の中から復活し、弟子たちと共にあり、四十日が満ちると天に挙げられ、御父の右に座し、各自の業に即して各人に報いるために、復活の終わりの日に御父の栄光のうちに来られるであろう。
 また、聖霊を。この〔霊〕を、〔聖書に〕記されているようにパラクレートス、「真理の霊」として、神の独り子なる御子、キリスト、主、我らの神ご自身が人類に遣わすと約束され、この〔霊〕を、天に昇られた後、彼らに遣わされた。
 しかし、本体(ウシア)という用語は大まかな意味で教父たちによって採用されたが、普通の人々には未知の〔言葉〕であって躓きの元となっている。この〔用語〕は〔聖〕書に含まれていないからである。この〔用語〕は取り除かれた方が良いと思われるし、神について本体(ウシア)ということをこれ以上言及すべきではない。聖書は、御父についても御子についても、本体(ウシア)といったようなことはどこにも言及していないからである。更に、御父と御子と聖霊に関して実体(ヒユポスタシス)という用語も用いられるべきではない。聖書も言っており、教えているように、すべての点で御子は御父に類似した方(homoios)であると我々は主張するものである。既に断罪されたものであれ、最近になって生じたここに提示された文書に反対するものであれ、すべての異端は排斥される。(小高毅訳)〔『原典 古代キリスト教思想史』(2)240~41頁〕
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