1章 ただ民主主義のために
        京都コイノニア会
      (2022年5月28日)
■ひとつの疑問
 2022年5月14日頃のことです。どのチャンネルだったか忘れましたが、テレビで、ロシアへの経済制裁に積極的に参与している国を世界地図で赤く色分けして見せていました。私は、これを見ながら、一つの疑問を抱きました。
 その世界地図によれば、赤く色分けされていたのは、ヨーロッパのEU諸国(イギリスを含む)と、北米大陸(カナダとアメリカ)と、オーストラリアと日本でした。一見しただけですぐに分かるのは、広大なユーラシア大陸では、ウクライナを境界にして、その西側のEU諸国が赤く、ウクライナの東側からは、ユーラシア大陸の赤は全くなくなります。ただ一つ、アジア大陸の東端にある日本だけが、ぽつんと赤く染まっています。さらに、その遙か南東に、オーストラリアだけが赤く映りました。
 だから、アジア全体に目を向けるなら、中国を中心にして、トルコもアラブ諸国もインドも東南アジア諸国もフィリッピンも灰色です。世界規模でのこの地図では、太平洋上のハワイからオーストラリアを含める南北線を引くと、その境界線は、日付け変更線ならぬ赤色変更線となります。その変更線の東側にあたるオーストラリアと北米大陸とヨーロッパが赤く、その境界線の西側では、ただ一つ、日本だけが赤いのです。なんのことはない。世界のキリスト教の国々だけが赤く、ロシアを除けば、その他の国々は、ことごとく灰色です。いったい、これは何を物語っているのでしょうか? 私は、考え込まざるをえませんでした。
 今、日本では、ウクライナとロシア問題をめぐって、アメリカと組んで、ロシアに経済制裁を課しています。新聞もテレビも、連日、日本の軍備を拡大しなければならないと言い立てています。その上、日本は、アメリカと組んで核をシェアするか、あるいは、日本自身が核兵器を所有しなければならないという意見までが、公然と語られています(E・トッド「日本核武装のすすめ」その他『文藝春秋』2022年5月特別号)。はるか西方のウクライナのことではなく、アジアでは、一人日本だけが、ロシアと中国との同盟関係と対立しながら、欧米と組んでロシアへの経済制裁に加わっているのです。テレビで騒ぎ立てている軍備拡大論も、日本は、どうすれば、中露と向き合って、日本の安全を保障するのか?ということばかりです。
 私に言わせれば、日本がロシアと戦うなど、もってほかです。もしも、今以上に、反ロシア政策を強化して、ロシアの対日感情を悪化させたら、ロシアは、北海道に侵攻してくる危険があります。日本が中国と戦争を始めたら、「勝った、勝ったが、負けの始まり」だと心得るべきです。だから、日本は、中露と戦争など絶対にできません。そうだとすれば、今の日本は、<戦争しないために、戦争の準備をし>、<武器を使わないために武装しなければならない>。こういう、おかしな立場に追い込まれていることが分かります。日本人は、中ロと戦争しないために、危険を冒してあえて武装する。本気でその覚悟があるのでしょうか?
■ただ民主主義のために
 この地図を見れば分かりますが、もしも、今、日本が戦争を避けて、自国の安全だけを保障したいと思うなら、最も有効な方法が一つあります。それは、日本が、中露に完全に降伏して、中露同盟の中に組み込まれることです。日本が完全に中露の支配下に入ってしまえば、ウクライナから東のほうでは、太平洋のハワイとオーストラリアを結ぶ境界線までが、完全に灰色一色になります。だから、アジアで、中露に敵対する国はなくなります。これで中国は万々歳になり、アメリカは、わざわざ自国が核で襲われる危険を冒(おか)してまでも、太平洋の西にあるアジアまで手を伸ばし、中露と闘うことなどしなくなります。なんのことはない。今のウクライナ問題で言えば、日本がベラルーシになればいいのです。現在のベラルーシは、ロシアのような経済制裁を受けていませんから、地獄のウクライナ、極楽のベラルーシです。
 アメリカは、かつてヴェトナムから手を引き、今また、パキスタンからもアフガニスタンから手を引きました。日本が中露の側になれば、アメリカは、アジア大陸から完全に手を引いて、南北アメリカ大陸とヨーロッパのキリスト教諸国を安全に守ることだけを心がければ済むことになります。これで、アジア大陸の東端の日本は、どこからも攻撃される心配がなくなりますから、確実に「戦争を避ける」ことができます。
 いったいなぜ、日本は、中露に対抗して武装しなければならないのでしょうか? 中国の言いなりになれば、武力は要らないし、経済もなんとかやっていけます。それなのに、今の日本が、中露と対決しなければならない理由は、なんでしょうか? 理由はただ一つ、今の中露は、日本のような「民主主義の」国ではないからです! だから、日本が中露に支配されれば、おそらく北海道はロシアに支配され、日本のその他の国土は、ウイグル人やチベット人や香港人の領土のように「自治区」にされて、キリスト教も仏教も弾圧され、個人の自由も社会の自由も奪われて、中露の政府の恐怖政治に支配されてしまうからです。
 したがって、今、日本が、中露に対して武装しなければならない理由は、国土の保全と国の独立のためです。しかし、この理由なら、日本以外の他のアジア諸国も、中露に対して同じ脅威を抱くくはずですから、日本だけが、対中露政策で、「赤く染まる」理由になりません。日本の場合は、国土の独立保全以外に、もう一つ大事な理由があります。それは、「今の日本の民主主義体制を守る」ことです!中露と組むことが<できない>のは、今の中露が、日本のような民主主義の国で<ない>からです。 今の日本人は、なんとしても、平和に、日本の民主主義を守りたい。これが本音です。
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