アメリカの対ロシア政策の盲点
      京都コイノニア会で
     (2022年4月30日)
■アメリカの盲点
 アメリカは、核戦争に陥ることを恐れて、ウクライナ問題において、軍事介入は行なわないと宣言しました。これは、バイデン政権の卓見です。ところが、バイデンは核を使用するかどうかを意図的に曖昧にしておくべきであったと、アメリカの対ロシア政策の謬りを指摘する声が、日本でも聞かれます。アメリカが、ウクライナ問題で、一貫して対処してきた政策は、現在の民主主義諸国家に受け容れられていて、基本的に正しいです。これに追従する日本政府の対ウクライナ問題への政策も、国際的に評価され、国民に支持されています。
 しかし、現在のアメリカのバイデン政権の対ロシア政策で、見落とされている盲点があります。それは、ロシア人一般に対する否定的な見方です。アメリカは、ロシア民族を主体とするプーチン流の大ロシア帝国主義とこれを支えるモスクワのロシア正教会の総主教と、ロシア国民ほんらいの有り様とを区別しなければなりません。プーチン政権の言う「ロシアの世界」と、ロシア人一般のほんらいの心情とを取り違えてはなりません。ロシア民族の国家と文化それ自体を「悪者のロシア」だと見て、これを侮蔑し敵視して、その偏見を世界に拡散させてはなりません。言い換えると、バイデン政権は、専横なプーチンのロシア帝国主義と、伝統あるロシア正教に培われた一般のロシア国民の霊性と、この二つの区別を明確にしていないのです。このために、日本においても、ロシア国民をプーチン政権と一体化して見る傾向があります。ロシア人が長い間培ってきたロシア正教の宗教的な霊性に目を向けることをせず、ロシアの民そのものまで<否定的に>とらえることがあってはなりません。戦争を命じる独裁者と、命じられた民の悲哀とを同じに見てはならないのです。
■まことのロシア
 革命前(1916年)のロシアの皇室を惑わせたのがラスプーチンなら、革命後(2022年)のロシアを惑わせているのがプーチンです。どちらのロシアも、あるべきほんらいのロシアではありません。トルストイとドストエフスキーとチャイコフスキーのロシアこそ、ほんらいの「あるべき」ロシアです。トルストイは、個人の良心の大切なことを説き、ドストエフスキーは、人間の罪深さと神の赦しを教えました。わたしたちが今見ているプーチン流のロシアを、ロシアの実際の姿だと思い違いしてはなりません。今なすべきことは、あるべきほんらいのロシアを取り戻してほしいと呼びかけることです。一方的に攻撃したり、経済制裁を加えることではありません。民主主義を推進するのなら、民主主義<で>推進すべきです。相手の国の民を敵に回すのではなく、その民と<一緒になって>、独裁に向かうべきです。
 今、対ロシア政策で、最も大事なのは、プーチンのロシアを批判し、攻撃することだけでなく、ロシア正教に根ざす一般のロシア人の良心を信頼し、その宗教的な良心に訴えかけることです。これによって、プーチンの政策を改めさせ、ロシアと欧米との間に平和な関係を取り戻すよう仕向けることです。武力による対決一本槍では、危機は増大するばかりで、平和も解決も産まれてきません。ゼカリヤ書4章6節にこうあります。
「これがゼルバベルに向けられた主の言葉である。
武力によらず、権力によらず ただわが霊によって、
と万軍の主は言われる。」
■正しい宗教と国是
 かつてのローマ帝国のキリスト教会は、小アジアのビザンティン・キリスト教会をイスラムの攻撃から守らなかったばかりか、西方のラテンのキリスト教圏は、こともあろに、コンスタンティノポリスを攻撃するという「教会史的な謬り」を犯しました。当時、経済的に栄えていたイタリアのベネチィアなどは、東地中海の自己の商業ルートを確保するために、あえて東ローマの滅亡さえ謀った(?)と言われます。現在のアメリカのプロテスタント・キリスト教圏と、ロシア正教圏との間にも、ウクライナ問題を通じて、同じような出来事が起こっているのではないか。欧米とウクライナの民主主義が正義で、ロシアが悪であるとする<価値観の敵対関係>の背後で、欧米のキリスト教圏とロシア正教圏との間には、ある種の敵対関係が生じているのではないかと危惧します。
  あらゆる国家の国是には、これを支えるなんらかの宗教的な霊性が具わっています。では、その宗教的な霊性は、どのようにして「正しい」国是へ導くことができるでしょうか? そこには、次のような条件が必要です。
(1)宗教の霊性が個人の自由を可能にすること。
(2)個人の自由は、これを認め合い、赦し合う心に支えられて初めて可能であること。
(3)
このような霊性は、国家の権力の座にある人たちをも超える超越性(神性)によって初めて成り立つこと。
(4)そのような超越性を具えた霊性は、これを受け入れる者には赦しと贖いをもたらし、これを拒む者には裁きをもたらすこと。
■終わりに
 2022年4月16日(土曜)に、午後6時からの4チャンネル(毎日放送)のテレビ番組で、ウクライナ戦争に反対するあるロシアの作家に、日本の女性のアナウンサーがインタビューしました。その作家は、三島由紀夫の作品などをロシア語に訳した知日派のロシア人作家です。インタビューの終わりに、彼は日本語でこう言いました。「今のプーチンのロシアは、ほんとうのロシアではない。ほんとうのロシアは、プーチンのロシアと全く違います。ドストエフスキーやトルストイやプーシキンのロシアがほんとうです。どうか、このことを覚えておいてください」。私は、驚きました。先日、信友たちとの会合で全く同じことを言ったからです。アメリカとロシアが相争う中で、これが今、イエス様が、私たち日本人に語っておられるメッセージだからでしょう。気のせいか、コイノニアのホームページを見る人が増えているようです。今日本で、密かにイエス様を信じる人が増えているのかもしれません。感謝です。
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