■補遺:最高法院とペトロの否認
古シリア語版(SYs)
ヨハネ福音書18章:
12節〜13・24・14〜15・19〜23・16〜18・25〜28節。
(Nestle-Aland. Novum Testamentum Graece. Deutsche Bibelgesellschaft: 363. Apparatus 13--24.)
【逮捕とアンナスの家からカイアファの家へ】
18:12.そこで一隊の兵士と千人隊長、およびユダヤ人の下役たちは、イエスを捕らえて縛り、18:13.まず、アンナスのところへ連れて行った。彼が、その年の大祭司カイアファのしゅうとだったからである。18:24.アンナスは、イエスを縛ったまま、大祭司カイアファのもとに送った。18:14.一人の人間が民の代わりに死ぬほうが好都合だと、ユダヤ人たちに助言したのは、このカイアファであった。18:15.シモン・ペトロともう一人の弟子は、イエスに従った。この弟子は大祭司の知り合いだったので、イエスと一緒に大祭司の屋敷の中庭に入った。
【カイアファによる尋問】
18:19.大祭司はイエスに弟子のことや教えについて尋ねた。18:20.イエスは答えられた。「わたしは、世に向かって公然と話した。わたしはいつも、ユダヤ人が皆集まる会堂や神殿の境内で教えた。ひそかに話したことは何もない。18:21.なぜ、わたしを尋問するのか。わたしが何を話したかは、それを聞いた人々に尋ねるがよい。その人々がわたしの話したことを知っている。」18:22.イエスがこう言われると、そばにいた下役の一人が、「大祭司に向かって、そんな返事のしかたがあるか」と言って、イエスを平手で打った。18:23.イエスは答えられた。「何か悪いことをわたしが言ったのなら、その悪いところを証明しなさい。正しいことを言ったのなら、なぜわたしを打つのか。」
【ペトロの否認】
18:16.ペトロは門の外に立っていた。大祭司の知り合いである、そのもう一人の弟子は、出て来て門番の女に話し、ペトロを中に入れた。18:17.門番の女中はペトロに言った。「あなたも、あの人の弟子の一人ではありませんか。」ペトロは、「違う」と言った。18:18.僕や下役たちは、寒かったので炭火をおこし、そこに立って火にあたっていた。ペトロも彼らと一緒に立って、火にあたっていた。
18:25.シモン・ペトロは立って火にあたっていた。人々が、「お前もあの男の弟子の一人ではないのか」と言うと、ペトロは打ち消して、「違う」と言った。18:26.大祭司の僕の一人で、ペトロに片方の耳を切り落とされた人の身内の者が言った。「園であの男と一緒にいるのを、わたしに見られたではないか。」18:27.ペトロは、再び打ち消した。するとすぐ、鶏が鳴いた。(ピラトによる尋問と判決)18:28.人々は、イエスをカイアファのところから総督官邸に連れて行った。明け方であった。
【古シリア語版】(The Old Syriac Version)
古シリア語版は、大英博物館所蔵で、SYRcと
SYRsの2種類があり、上記の訳はSYRsに基づいています。SYRsは、1892年に、Agnes Smithによって、シナイ山の聖カテリーナ修道院で発見されました。SYRsは、2世紀末から3世紀初頭にかけて作成され、4世紀〜5世紀頃に筆写されたものです。タティアノス(2世紀)は、『ディアテッサロン』(Diatessaron)を著(あらわ)して(170年頃)、四福音書の記事を一貫した物語にまとめようとしました。この著作は、四福音書調和の最初の貴重な著作です。SYRsは、タティアノスによるこの四福音書の調和と関係すると考えられています。タティアノスは「ガリラヤからイエスに従った女性たち」から話を聞いたと伝えています。(Bruce M. Metzger & Bart D. Ehrman.
The Text of the New Testament. Oxford University Press: 2005. 96--97/133.)。
最高法院でのイエスへ